私たちは毎日の仕事や生活のなかで「疲労」を感じ、またこれに悩まされています。
「過労」はいまや日常用語にもなっています。疲労をいかに防ぎ、
また、疲労からどう回復するかは、健康で生活するために重要な課題のひとつといえます。
そこでここでは、主として作業と疲労の関係について考えてみます。
疲労とはなんだろう
私たちは日ごろ、なにげなく「疲労」とか「疲れた」という言葉を使っています。しかし、
私たちが日常体験する「疲労」はどのようなメカニズムで発生するのか、
疲労の本態はなにか、ということは、いまのところ明らかにされたとはいえないのです。
1 疲労とはどういう現象か
・努力のしすぎによる危険を避け、休息を求めている状況である
仕事を続けていると、疲れたなと感じ(疲労感)、作業能率が下がってきます。主に眼とか、使っている筋肉の機能にも変化があらわれます。そして、これ以上はむりだ、ひとやすみしたいなという欲求がおきてきます。これが疲労という現象です。
つまり、疲労とは「仕事の結果、体内に変化がおこり、そのまま続けるとやがてへばることが予測されるので、休息を求めている状況」と考えられます。努力のしすぎによっておこる危険を避けるための“安全装置”が発動した現象ともいわれています。
疲労は、病的状況ではないので、活動を中止し、休息をとるともとの状態にもどります。からだが、その時点でどの程度の休息を要求しているかによって、疲労の度合いがはかれることになります。
2 疲労にはどんな原因があるか
疲労のあらわれ方やメカニズムはきわめて複雑です。疲労の原因として次のような仮説が立てられています。
・有毒物質の蓄積により疲労がおこるという
ある特殊な物質が体内に蓄積される結果、疲労がおこるという説です。疲労をおこす物質としては、筋肉の収縮を抑える物質、たとえば乳酸や、その他の代謝産物があげられています。しかし、これらの物質と疲労との関係は必ずしも明らかではありません。
・エネルギー源の消耗により疲労がおこるという説
筋肉の活動にも、精神的な活動にもエネルギー源が必要ですが、そのエネルギー源の消耗によって疲労がおこるという説です。たとえば、激しい筋肉作業で筋肉中のグリコーゲンが使われて、蓄えが少なくなると筋肉疲労がおこるという考え方です。しかしエネルギー消費の少ないOA機器操作などや、精神作業の場合にはあてはまりません。
■ からだの内部環境の失調により疲労がおこるという説
私たちのからだには、内部環境を一定に維持するしくみ(ホメオスタシス)があります。外界や内部から精神的、身体的に強い刺激をうけると、このしくみがくずれ、疲労がおこるという説です。たとえば、暑さ、寒さ、あるいは飢え、睡眠不足、さらには不安、焦燥などの刺激が、からだに耐えきれないほど強くなる。つまりストレス状態が、精神疲労の主原因になるという考え方です。
このように、いろいろの説が唱えられています。これらのことが全体として統合されて、疲労という生命現象が現れてくるということでしょう。
3 疲労はどのように分類されるか
・「精神疲労−肉体疲労」「全身疲労−局所疲労」という分け方について
主に心理的、精神的緊張を強いられる作業でおこるものを精神疲労、筋肉作業が原因でおこるものを身体(肉体)疲労と呼ぶことがあります。このような分類は、人間の諸機能を便宜的に2つの側面に分けた考え方です。実際には、精神だけを使う労働もなければ、筋肉だけが働く身体活動もありえません。
また、疲労がおこる部位別にみて、その作業に主として働いた筋肉や器官に現れるものを局所疲労、全身に及ぶ疲労を全身疲労と呼んだりします。
・[急性疲労」と[慢性疲労」という分け方が実際的
急性疲労−その作業を始めて数分から数十分しておこる疲労です。急性疲労のしるしとしては、たとえば、重量物を取り扱う作業では、息切れや心拍数の増加がおこってきます。キーパンチ作業のような高密度の連続操作では、腕の筋肉痛、エラーが増えてきます。そのまま作業を続ければ明らかなへばり状態にいたります。
ちょっと手を休めては、作業を続けて、数時間それをくり返していると、しだいに疲労は進んでいきます。結局、長めの休憩時間(昼休みなど)が必要になります。(長時間立っている仕事、対人折衝などのときにも、このタイプの疲労がみられます。)
慢性疲労−その日の疲労が、休養や睡眠によって解消されないうちに、つぎの疲労が重なると、しだいに疲れがたまってきます。数日から数か月にわたって蓄積されたものが、慢性疲労の状態です。作業中にすぐ疲れやすく、無気力となって、労働意欲も低下してきます。
こうなると、毎日の生活周期のなかでは、容易には回復しません。やがて健康障害をまねき、欠勤しがちになったりします。
一日働いたあとの疲れは、ふつうはひと晩の睡眠によって回復します。しかし、労働が過重だったり、長時間にわたるようなときには、翌日に疲労がもちこされます。眠け、だるさ、注意力散慢などで作業能率が落ちるだけでなく、疲労のおこり方も、ふだんとちがったリズムになってきます。
疲労をどうやって少なくするか−職場における予防対策
慢性疲労状態や健康障害を予防するには、まず疲労をおこす原因を取り除くような対策が必要です。
1 作業自体による疲労の発生を軽減する
・作業には“ゆとり”がぜひ必要
作業中にちょっと手を休めたり、眼を閉じたり、椅子から立ち上がって背伸びをしたりすることを「自発休息」といいます。これより少し長めの休息は「休憩」です。こうした作業の合間のちょっとした休息が疲れを防ぐことは、私たちは体験として知っています。
作業中に発生した疲れは、その場その場で処理できればいちばんよいわけです。作業負荷がきびしければきびしいほど、自発休息や休憩のとれる時間的な“ゆとり”がぜひ必要です。
連続して行う作業では、仕事の区切りのつけにくいこともあるでしょう。そのような場合には、一連続の作業時間を短縮します。たとえば、キーパンチ(連続穿孔作業)は60分に制限し、合間に10〜15分休むというように、一定の割合で休憩をとり入れます。早いうちから休んだほうが結局は有利です。
・機器や設備を“人間に合わせる”ことが大切
機器が使いにくかったり、作業面や椅子の高さがからだに合っていないと、わるい姿勢を強いられ疲労をまねきやすくなります。
人間の動作や反応をきちんと考えにいれた、働きやすい設備や作業環境をととのえることが大切です。
・疲れをやわらげる作業環境をととのえる
たとえば流れ作業の場合は、単調さや拘束されている苦痛感を少なくすることが重要です。音楽(バックグラウンドミュージック:BGM)を流すのもよいでしょう。
温度、照明、騒音なども、疲労と関係してきます。とくに、複雑な作業や精密さが求められる作業では、ちょっとした“うるささ”“やかましさ”が作業を妨げ、疲労を生むといわれます。
2 作業者教育や作業管理
正しい動作、作業のやり方などを習熟するよう努力(教育、養成)することも重要です。慢性疲労は、作業密度が高く、休憩時間のとれない場合、規制あるいは責任が過大で、作業の達成感が得られない場合、また対人折衝が複雑な場合に多くみられます。その人に合った適正な配置、勤務のローテーションを考え、行動の自由を増すなどを考えることも必要です。
疲労をどう回復するか
疲労から回復する基本は、なにも特別なことではありません。適正な栄養と休養をとることです。このことはまた、疲労を予防するための個人的対策ともなります。
1 休養による疲労回復促進
・最良の休養はよく眠ること
からだにとって、睡眠は最良の休養です。しかし、いつも遅くまで残業したり、通勤に時間がかかるような場合は、どうしても寝不足がつづいてしまいます。また、夜勤明けに昼間眠る場合には、睡眠が妨げられがちです。
睡眠時間の短くなった分は、睡眠の深さで補う必要があります。熟睡できるような環境をくふうしたいものです。
・入浴も効果的
入浴は血液循環をよくし、筋肉の疲れをいやしてくれます。疲労回復には、40度前後のあまり熱くない湯にゆっくり入るのがよいとされています。
・“積極的休養”で疲労回復をはかる
仕事の合間、あるいは一日の労働を終えたあと、からだ全体を軽く動かすのはよいことです。運動は、適度な刺激となって、からだの機能の回復に好都合の状態をつくるといわれています。このように、疲れたあとに軽い運動をすることを「積極的休養」といいます。ただし、強すぎる運動は逆効果です。
疲れがたまってきたら、休日にリクリエーションで気分転換をはかることも考えましょう。
2 栄養補給による疲労回復促進
・自分の身体活動に見合った栄養摂取を心がける
どの程度のエネルギーおよび各栄養素をとったらよいかは、『日本人の栄養所要量』(厚生省)が参考になります。身体活動量に応じて生活活動強度「軽い」「中等度」「やや重い」「重い」の4段階別に、男女のエネルギーおよび、たん白質、脂肪、カルシウム、鉄、ビタミン類の所要量が示してあります。
・たん白質についての注意
自分の身体活動量に見合った十分なエネルギー量をとっていれば、筋肉労働をするからといって、とくにたん白質量を増やす必要はないでしょう。ただし、睡眠不足とか、昼夜逆転した生活リズムの乱れなどのストレスで、また長時間とくに激しい運動をしたときは、たん白質がからだから失われます。
・ビタミンやミネラルについての注意
ビタミンB1は激しい筋肉労働で、ビタミンCは発汗を伴うような運動や各種のストレスによって、体内での消費が高まります。
また、高温環境での作業では、汗の中にナトリウムが失われます。その他のミネラルも、運動による疲労時、ストレスなどによって失われます。
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